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2017年08月09日

冬虫夏草

冬虫夏草



    冬 虫 夏 草

      梨木香歩
      新潮文庫


 今年の夏はほんとに暑い!

暑いときは読書にかぎる。

それも、涼しい気分になりながら、

気持ちが広がっていくものが良い。


以下本文より、、、。

 子どもたちは十二歳を頭に十歳、六歳の男の子。

すでに夕飯はすませたらしいのだが、

母親の叱責も何のその、

好奇心いっぱいに私が食すのを見ている。

鮎に手をつければ、

ーうまいか。

と訊く。

ーうまいぞ。

と答える。

 三人が三人、

そこでにんまりと笑みを浮かべるのは、

見ているこちらが吹き出してしまうほど、

判で押したように大中小の同じ顔である。

大の顔が、

ーそれは俺がとってきた鮎じゃ。

ーそうかうまいぞ。

むかご飯に手を付ければ再び大の顔が、

ーうまいか。

ーうまいぞ。

ーそれは俺が採ってきたむかごじゃ。

ー俺も採った。

中の子も云い添える。

ーそうかうまいぞ。

里芋に手を付ければその中の顔が、

ーうまいか。

ーうまいぞ。

ーそれは俺が掘ってきた芋じゃ。

ーそうかうまいぞ。

小の顔がむずむずしている。

これか、とセリの浸しものに箸をつければ、

ーうまいか。

と、食う前から聞く。

セリはこの辺り、

この子でも摘めるところに生えているのだろう。

山の水が流れて小川に合流する、

支流ともいえぬような湿地に。

この子の遊び場もかねているような、

そういう山の際が脳裏に浮かんだ。

 まだ食っておらぬ、と云うと、

きまり悪そうな顔をする。

口に入れ、訊かれる前に、

うまい、と答える。

いちいちそれで、

金太郎あめのような同じ顔で

三人がにんまりするのである。

それが何ともいえず愉快で、

しまいには腹を抱えて笑った。

(P239~P241)


      沖縄に在っても、

 こういう話はもうないのだろうと思う。

    ささやかではあっても、

 家庭労働として水汲みがあった私たちは、

    こういうものを読むと

   「にんまり」してしまう。
 
       温かくて、

  涼しきなってきませんか、、、。


       カワウソ



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